横浜地方裁判所川崎支部 平成4年(ワ)466号 判決
川崎市中原区木月住吉町一八八七番地
原告
株式会社 藤田兼三工業
右代表者代表取締役
藤田秀雄
右訴訟代理人弁護士
寺島健造
同
小林美晴
同
齋藤忠治
鹿児島市鍛治屋町八番七号
被告
板塗工業株式会社
右代表者代表取締役
上原輝雄
右訴訟代理人弁護士
橘高郁文
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、別紙イ号そのA商品目録記載の「縁付き凹型ジョイント」及び別紙イ号そのB商品目録記載の「金属薄板」を製造及び販売並びに販売のために展示してはならない。
二 被告は、右「縁付き凹型ジョイント」及び「金属薄板」の各商品の完成品、同仕掛品及び製造用専用機械並びに製造用金型を廃毀せよ。
三 被告は、原告に対し、四〇〇万円及びこれに対する平成四年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実等
以下のうち、1は当事者間に争いがなく、2は甲第一号証及び弁論の全趣旨により認められる。
1 原告は、別紙特許権目録記載の特許権(以下、その特許発明を「本件特許工法」という。)の特許権者である。
2 本件特許工法は、次の六工程構成、それらの結合からなる方法の発明である。
(一) 木造住宅の外周に配置した柱1の上端の胴差2の下方に桁3を横架し、該各柱1の前方に適当間隔をおいて柱1'を任意数本立設して上端に桁3'を横架し、桁3'の上面を桁3の上面より低位置となし、桁3、3'の上面に左右適当間隔をおいて垂木4を架設し、桁3'の正面に一対の腕木5、5'を数組突設し、該各腕木5、5'の先端に束6を垂直に固締し、各束6の上端に桟木7を固締し、束6並びに桟木7と同一高厚の側板8を桁3、3'の両端並びに桟木7の両端に連設し、垂木4並びに束6の間隔溝内に雨樋9を嵌着し、
(二) 各垂木4の上面にコンクリートパネル10を両側端に間隔をおいて張設し、
(三) 該各コンクリートパネル10の間隙に凹型ジョイント11を嵌着して、
(四) コンクリートパネル10上面に発泡板やグラスウール板の様な断熱板12を張設し、
(五) 前端並びに両側端を下方へ曲折すると共に、後端を上方へ曲折させた金属薄板13を断熱板12上面に張設し、両端曲折を凹型ジョイント11内へ嵌入して目地コーキング14をすると共に前端曲折を雨樋9に係嵌させ、更に後端曲折を胴差2に固締し、
(六) 前部の桟木7並びに両側の側板8の上端に化粧金属枠板15を嵌着すると共に手摺16を立設し、雨樋9に縦樋17を連通させることを特徴として成るベランダ屋根の構築方法。
二 当事者の主張
(原告の主張)
1 間接侵害
原告は、本件特許工法であるプロムナールーフ用の「ベランダ屋根の構築方法」の実施に当たり、その施工法を「プロムナールーフ工法」と称している。本件特許工法に専用的に使用される部材としては、前記一2の(三)の工程で使用される「縁付き凹型ジョイント」と同(五)の工程で使用される「金属薄板」とがあり、原告は、これらを製造し本件特許工法実施の業者に販売している。
被告は、平成元年九月ころから、別紙イ号そのA、そのB商品目録記載の各商品を製造し、「プロムナールーフ工法」施工業者、屋根工事業者らに対して、同工法用専用部材として販売している。
別紙イ号そのA、そのB商品目録記載の各商品は、本件特許工法に専用的に使用される部材である前記「縁付き凹型ジョイント」及び「金属薄板」の各形状、構成と全く同一のものであり、被告がこれらの商品を製造販売することは、本件特許権の間接侵害となるものである。
2 共同不法行為による直接侵害
被告は、多数のベランダ屋根構築業者から発注を受け、右業者らに対し、右業者らにおいて本件特許工法の工事用にのみ使用されるものであることを知悉のうえで、被告の所有する製造用機械(金型を含む。)を使用して、別紙イ号そのA、そのB商品目録記載の各商品を製造販売納品している。
被告の右行為は、右ベランダ屋根業者らの実施する本件特許工法に抵触する工事に加担するもので、本件特許権侵害の共同不法行為に該当するものである。
(被告の主張)
1 間接侵害
被告はイ号そのA商品目録記載のような形状の製品を製造販売してはいるが、原告がイ号そのA商品目録として図示している形状の金属は、いわゆる「通し吊子」として瓦棒葺き屋根(金属板葺きの屋根であるが、金属板を重ね合わせて葺いていくのではなく、金属板と金属板との間にこの形状の金属を挟み込んで葺いた屋根)に古くから使用されてきたものである。
また、原告がイ号そのB商品目録として図示している形状の金属板のような形状の商品は、被告は一切製造販売をしていないし、被告商品には金属板の左右両側を曲折したものはあるが、これに加えて前後までも屈曲した商品はない。なお、金属板の左右両側を屈曲した商品は、右通し吊子とともに瓦棒葺き屋根に古くから使用されている。
原告が侵害商品として主張しようとしているものと推測される被告製造の商品(以下「被告商品」という。)は、屋根にも使用されているものであり、ベランダに使用される場合であっても、そのベランダは本件特許のような構築方法以外のベランダであるのが普通であって、これが本件特許の実施にのみ使用するものであるとの原告の主張は失当である。
2 共同不法行為による直接侵害
原告の主張は具体性を欠き、それ自体失当である。
第三 当裁判所の判断
一 間接侵害の主張について
別紙イ号そのA、そのB商品目録添付の各図面は、一部その記載が省略されており、その詳細は明らかでないが、弁論の全趣旨によれば、被告も別紙イ号そのA商品目録記載のような形状の商品を製造販売していることは認められるものの、別紙イ号そのB商品目録記載の商品を製造販売していることを認めるに足りる証拠はない。
しかも、乙第三ないし第二〇号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が別紙イ号そのA商品目録として図示している形状の金属は、いわゆる「通し吊子」として、金属板と金属板との間にこの形状の金属を挟み込んで葺いた金属板葺きの屋根である瓦棒葺き屋根に古くから使用されてきたものであること、被告商品は、本件特許工法とは全く関係のない建築材料として、屋根、屋上、室内や物干し場の床等種々の用途に使用されており、ベランダに使用される場合であっても、その基本構造として、住宅の前方に柱を立設させるという本件特許の構築方法とは異なり、住宅の一階部分の上にベランダを構築する方法によつた場合にその床に使用されていることが認められ、これらによれば、被告商品が本件特許工法に専用的に使用されるものであるとまでは認められない。
二 共同不法行為による直接侵害の主張について
被告が他の者と共同して本件特許工法の構成要件のすべてに該当する工事を施工しているとの具体的な主張はなく、また、概括的にせよこれを認めるに足りる証拠も見当らない。
三 文書提出命令の申立について
原告の文書提出命令の申立(当庁平成六年(モ)第一四二号)は、原告前記1、2の各主張がいずれも理由がないこと前述のとおりであるから、その必要性ないこと明らかであり、これを却下することとする。
四 結論
よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 橋本眞一 裁判官 濱口浩)
イ号そのA商品目録
別紙「イ号A図面」に図示した如き形状・構造を有する「縁付き凹型ジョイント」
イ号そのA図面の説明
第1図はイ号そのA商品の正面図、第2図は同右側面図(尚、同左側図面は、左右対称につき省略)、第3図は同底面図、第4図は同正面図(尚、同背面図は、前後対称につき省略)であり、右第1乃至4図記載の「縁付き凹型ジョイント」の参考斜視図を別紙「参考図面」中に図示しておく。
右各図において、符号11は「縁付き凹型ジョイント」の全体、同aは「縁付き凹型ジョイント」の「縁」の部分、同bは「縁付き凹型ジョイント」「凹溝」の部分を示す。
尚、別紙「参考図面」記載の「イ号そのA商品及び同B商品の組合せ使用状態における断面図」中の符号10は「コンクリートバネル」、同11は本件「縁付き凹型ジョイント」、同12は「断熱板」、同13は「金属薄板(イ号そのB商品目録記載のもの)」、同14は「目地コーキング」を示す。
イ号A図面
〈省略〉
イ号そのB商品目録
別紙「イ号B図面」に図示した如き形状・構造を有する「金属薄板」
イ号そのB図面の説明
第1図はイ号そのB商品の正面図、第2図は同背面図、第3図は同右側面図、第4図は同左側面図、第5図は同上面図、第6図は同底面図であり、右第1乃至6図記載の「金属薄板」の参考斜視図を別紙「参考図面」中に図示しておく右各図において、符号13は「金属薄板」の全体、同cは「金属薄板」の「前端下方曲折部」、同dは「金属薄板」の「両側端下方曲折部」、同eは「金属薄板」の「後端上方曲折部」を示す。
尚、別紙「参考図面」記載の「イ号そのA商品及び同B商品の組合せ使用状態における断面図」中の符号10は「コンクリートパネル」、同11は「縁付き凹型ジョイント(イ号そのA商品目録記載のもの)」、同12は「断熱板」、同13は本件「金属薄板」、同14は「目地コーキング」を示す。
イ号B図面(その1)
〈省略〉
イ号B図面(その2)
〈省略〉
参考図面
〈省略〉
特許権目録
発明の名称 ベランダ屋根の構築方法
出願日 昭和五八年一月二五日
出願番号 昭和五八年第一〇九五七号
公開日 昭和五九年八月九日
公開番号 昭和五九年第一三八六三三号
公告日 昭和六四年一月一二日
公告番号 昭和六四年第一六一四号
登録日 平成一年九月二九日
登録番号 第一五一九五八四号
譲渡移転登録日 平成二年四月一八日